このページは、情報誌「京都」掲載記事からの転載です
2000.1.7発行 46号
       
 

中川 平
なかがわ たいら

昭和5年生まれ。教鞭をとる傍ら、同37年、宮司に就任。
近畿宗教連盟副理事長、平安雅楽会理事長を兼任。また、雅楽の竜笛・狛笛の名手でもある。
昭和56年、京都市伝統芸能功労者賞表彰受賞。


 この神社には「境内盛況之図」という、百年前の絵馬が残っています。この絵馬には、当時の地主神社境内の様子が、身分の上下も老若男女も問わない和気あいあいとした雰囲気で描かれています。現在も、絶えず境内はお参りに来る人でにぎわっています。この神社にお参りされた理由についてアンケートを取ったところ、「生きる勇気が出る」「頼りがいがある」という理由が圧倒的に多く、地主神社にお参りにきた人は神様をとても身近に感じているのだとわかります。
 しかし、全般に多くの日本人は文明的な進歩とひきかえに、神様を身近に感じ、敬う気持ちをなくしてしまったのではないでしょうか。服も、食事も、家も、何もないところから生まれるのではなく、もとをただせばすべて自然の産物が原料になっています。科学がどこまで発達しても、自然の力まではコントロールできません。昔の人たちは、神様から授かった「自然」に必ず感謝の心を捧げてきました。今の若者は目上を敬う気持ちが欠けている、礼儀がなっていないといった声をよく耳にします。けれども彼らを叱る前に、経済発展のみに目標を置き、日本人が昔からごく自然に育んできた感謝する「心」を若者に伝えてこなかったことをまず反省すべきです。二十一世紀は「心」の時代、日本人が日本人の「心」を取り戻す時代だと思います。
 古い歴史や習慣、礼儀を大切にする「心」、すなわち日本の伝統的「文化」が薄れ出したことは、ここ京都においても例外ではありません。観光に来てくれる人がこのような京都をどう捉えているか、何を望んでいるかを検討せずに、観光客の誘致をと言葉だけで言っているのが心配です。機械ではなく、人は「心」あるもの。それを汲み取ることから喜びが生まれ、喜びが喜びを呼び、町は活気づくのだと思います。

 


(じしゅじんじゃ)
地主神社

「縁結びの神」大国主命を祭る清水寺境内にある神社で、創建年代は神代と伝わる。平成6年世界文化遺産に指定される。寛永10年(1633)、徳川家光により再建された現在の社殿は、入母屋造りと権現造りの様式を兼ね備えた桧皮葺の優美な建築物であり、重要文化財。また、中世以降桜の名所として知られ、「地主桜」の名がある。国の内外を問わず、テレビ、雑誌等さまざまなメディアにとりあげられている。

〒602
東山区清水1丁目
075-541-2097



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